今まで僕の足元を深くぬらしていた血の海が、突然あちこちから盛り上がり、お互いを取り込んだり取り込まれたりしながら、一本の太い木になっていた。
幹も枝も赤く、葉はない。
床一面に広がっていた何十人分という血が、木を形作りながら液体らしくゆるやかな波を描いている。

それだけか、と僕が胸をなでおろしたのを見計らったように、幹や枝のあちこちからたくさんの顔があらわれた。
その顔は死人かこの世のものでないもののように青白く、目の部分には眼球がないかわりにぽっかりと黒い穴があいている。
どこを見ているわけでもないのに、その目は僕をじっと見つめているような気がした。

たくさんの空洞が僕を見ている。

気がつくと周りに転がっていたクラスの人間達が姿を消し、木の中から僕をにらみつけている。

嫌だ。こんなの嫌だ。
逃げようとしたけど、足はぴくりとも動かない。
視線を奴等から外せない。
木が動いた。
その太くて赤い幹を、まるで津波のように高く大きく広げ、枝はさらに細く長く伸びて僕に覆い被さろうとした。
逃げたいのにからだが動かない。
体中に重りをつけたどころか、髪の毛の先まで風になびかない気がした。

僕は赤い津波にのまれた。
小さい頃、海におぼれたことがあるけど、これは多分そんなものより苦しい気がした。

身動きが取りづらい。
息ができない。
目の前に何があるかわからないから、ずっと目を堅く閉じていた。

昔母さんがホットケーキを作る時にかき混ぜていた、あんな感触がする。
普通の水の方が全然良かった。
次第に息が続かなくなる。
苦しい。

「あなたは世界の成り立ちを忘れてしまったのね」

アリスの声がした。

続(ちなみに次回最終回なり)

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鏡

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